一言で言うとどう違うか
「退職届」と「退職願」は、どちらも会社を辞める意思を書面にしたものですが、法的な性質が根本的に異なります。
通常の状況では「退職届」か「退職通知書(内容証明)」を使ってください。退職願は会社の承認が必要な書類のため、会社が受理を拒否したり引き止めに使われたりするリスクがあります。円満退職を目指す場合でも、最終的には「届」の形式にすることをお勧めします。
書類の見た目と記載内容
実際の書類がどのように異なるか、比較してみます。
私こと、このたび一身上の都合により、令和○年○月○日をもって退職いたします。
所属部署 △△部
氏名 山田太郎 ㊞
○○株式会社
代表取締役 ○○○○ 殿
「退職いたします」という言い切りの表現を使う。退職日を明記することで、2週間後より後の日付であればその日が退職日として確定する。
私こと、このたび一身上の都合により、令和○年○月○日をもって退職いたしたく、ここにお願い申し上げます。
所属部署 △△部
氏名 山田太郎 ㊞
○○株式会社
代表取締役 ○○○○ 殿
「退職いたしたく〜お願い申し上げます」という申請形式の表現を使う。会社側が「承認」して初めて退職が確定するため、会社に主導権がある形式。
書類の本文は、「退職いたします」(断言)か「退職いたしたく〜お願い申し上げます」(申請)かの差です。タイトルが「届」か「願」かだけでなく、本文の文体が法的性質を決定します。タイトルが「届」でも本文が申請形式だと退職願と同じ性質になる可能性があります。
撤回できるか——法的な違い
両者の最大の違いは、提出後に撤回できるかどうかです。これは民法の「意思表示」の理論によって説明されます。
退職届:到達時点で効力発生、撤回は原則不可
退職届は、民法第627条に基づく「解約の申し入れ」です。会社に到達した時点で意思表示の効力が生じます(民法第97条)。会社の「承認」は不要であり、会社が「受け取らない」と言っても、届いた事実があれば法的効力が生じます。
提出後の撤回は、会社が同意した場合を除き原則として認められません。「やっぱり辞めない」と言って撤回するには会社側の合意が必要です。退職をしっかり実現したい場合には有利な書式です。
退職願:承認前なら撤回できる
退職願は「退職の申し込み」であり、会社側の「承認(申し込みへの承諾)」があって初めて退職が確定します。承認前であれば、申し込みを撤回(取り消し)することができます。
これは労働者に有利な面もありますが、裏返せば会社が「承認しない」と言えば退職できない状態が続くリスクでもあります。ただし、会社が退職願を受理しなくても、民法第627条による「2週間後の当然退職」は認められると解されています(届出の性質も兼ねるとする見解もあります)。
退職願を提出後に「内定を取り消された」「やはり続けたい」という事情が生じた場合、承認前であれば撤回の余地があります。一方、一時的な感情で退職届を出してしまい撤回したい場合は、会社に事情を説明して合意を求めるしかありません。どちらの書式を使うかは、状況を踏まえて慎重に判断してください。
「退職通知書」という第三の書式
退職届・退職願に加え、このサイトが推奨する「退職通知書」という書式があります。これは内容証明郵便で送付するもので、退職届と同じく一方的通知の性質を持ちながら、さらに強力な証明力を持ちます。
| 書式 | 提出方法 | 会社の承認 | 撤回 | 証明力 | 向いているケース |
|---|---|---|---|---|---|
| 退職願 | 手渡し・郵送 | 必要 | 承認前は可 | 低 | 会社との関係を良好に保って円満退職したい場合(ただし注意が必要) |
| 退職届 | 手渡し・郵送 | 不要 | 原則不可 | 中 | 退職を確実に実現したい場合。手渡しでも有効だが「受け取っていない」と言われるリスクがある |
| 退職通知書 (内容証明) | 内容証明郵便 | 不要 | 原則不可 | 最高 | 圧力・引き止めが予想される場合、ハラスメントがある場合、有給消化・未払い賃金等の付帯請求も行う場合 |
退職通知書を内容証明で送ることの最大のメリットは、「いつ・誰が・何を送ったか」が第三者機関(日本郵便)によって証明される点です。「受け取っていない」「そんな書類は来ていない」という言い訳を封じることができます。
どちらを提出すべきか
あなたの状況に答えると、最適な書式を確認できます。
退職理由の書き方——「一身上の都合」の罠
退職届・退職願の退職理由欄には慣習的に「一身上の都合により」と記載されることが多いです。しかし、この表現が後から不利に働くケースがあります。
「一身上の都合」と書いてはいけないケース
| 退職の実態 | 「一身上の都合」と書いた場合のリスク | 推奨する記載 |
|---|---|---|
| パワハラ・セクハラが原因 | 特定理由離職者に認定されにくくなる。ハローワークでの申告時に「自己都合」と扱われ、2ヶ月の給付制限がかかる可能性がある | 「職場におけるハラスメントを理由とした退職」と明記する |
| 体調不良・精神疾患が原因 | 特定理由離職者に認定されにくくなる。医師の診断書がある場合でも、書類上「一身上の都合」では判断に不利 | 「健康上の理由による退職」と記載し、診断書を別途用意する |
| 会社の違法行為・労働条件の相違が原因 | 特定受給資格者に認定されにくくなる。後日の損害賠償請求でも「自ら希望した退職」とみなされるリスク | 具体的な事実(「賃金の著しい低下」「明示された労働条件との相違」等)を記載する |
| 転職・キャリアアップが目的 | 問題なし。このケースでは「一身上の都合」が適切な表現 | 「一身上の都合により」で問題なし |
| 会社都合(リストラ・倒産等) | 会社都合なのに「自己都合」と書かされるリスクがある。失業給付に大きく影響する | 「会社の都合による退職」と明記。会社都合の事実を書面に残す |
退職届・退職願に「一身上の都合」と書いてしまった後でも、ハローワークでの求職申込の際に「離職票の退職理由に異議あり」として正確な退職理由を申告できます。ハラスメント・健康上の理由であれば、証拠(録音・診断書・退職通知書の控え等)を持参して申告することが重要です。
手書きかPCか
退職届・退職願を手書きで作成しなければならないという法的規定はありません。ただし、慣習や会社のルールとして手書きを求める会社も存在します。
手書きのメリット・デメリット
手書きの場合、筆跡が本人確認の根拠になるという実務上のメリットがあります。「本人が書いた」という証明になりやすいです。一方で、誤字脱字があっても修正液は使えず書き直しが必要なこと、また筆跡から感情状態を読まれる(弱気な文字・震えた字)可能性があることが挙げられます。
PC作成のメリット・デメリット
PC作成の場合、誤字なく整った書類が作れます。ただし「なぜ手書きでないのか」と言われることがあります(法的には問題ありません)。
内容証明郵便の場合
e内容証明(日本郵便のサービス)では、Wordファイルをアップロードする形式のため、PC作成が前提です。このサイトのジェネレーターを使えば、e内容証明に対応したWordファイルを自動生成できます。
会社に手渡しする退職届・退職願:手書きが無難(会社の指定があればそれに従う)。内容証明郵便で送る退職通知書:PC作成が前提。どちらも法的効力に差はないが、会社の文化に合わせると摩擦が少ない。
受理されなかった場合の対処
退職届を提出しようとしたところ「受け取れない」と言われたり、机に置いてきたら返却されたりすることがあります。このような場合の対処法を確認します。
「受け取れない」と言われた場合
退職届(解約の申し入れ)は、会社側の「受理」を必要としません。「相手方に到達した時点」で効力が生じます(民法第97条)。会社が「受け取れない」と言っても、書類を置いて帰ってきた場合や内容証明で送付した場合は、法的に意思表示が到達したと評価されます。
最も確実な対処法:内容証明郵便で送る
手渡しで受理されない・されるか不安な場合は、内容証明郵便(退職通知書)で送付するのが最も確実です。内容証明は日本郵便が「いつ・誰が・何を送ったか」を証明するため、会社が「届いていない」と言うことができません。書面到達の翌日から2週間後に、法律上自動的に退職が成立します。
- 退職届・退職願の法的性質を理解した上で、状況に合った書式を選ぶ
- 会社の承認なしに確実に退職を実現するには退職届か退職通知書(内容証明)を使う
- ハラスメント・健康上の理由が退職原因なら「一身上の都合」と書かない
- 書いてしまった後でも、ハローワークで正確な理由を申告することができる
- 受理されない場合の最終手段は内容証明郵便。到達した時点で法的効力が生じる
- 手書きかPCかは法的に差はないが、内容証明はPC作成が前提
退職届か退職願かという選択は、書類の名称の話ではなく、退職という意思表示を「通知」するか「申請」するかという法的構造の選択です。どちらを選ぶかは、あなたと会社の関係性と、退職を実現する際にどれだけの圧力が予想されるかによって決まります。
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